女の子にとっての特別な日の戦闘服
—SINA SUIENのお洋服はとてもガーリーだけど芯のある強さを感じます。ジブリの『千と千尋』の千尋が着ていそうだなと思ったのですが、有本さんはどんな女の子につくっている服を着てほしいですか?
まさしくそういう女の子たちに着てもらいたいと思っています。ちょっと特別な時や気合いを入れたい日とか。普段でも、戦闘モードになりたいときに着てもらいたいです。
デザイナーの有本ゆみこさんのアトリエにて
—他のインタビューで、一貫してして「戦う」というテーマがあると読んだのですが、有本さんにとって戦う対象はなんですか?
最近は自分自身との闘いがすごく多いです。でも何に対してもいつも疑問を持ったり、戦う姿勢を持ち合わせていたいなと思います。
CPKギャラリーのショーにて、モデルのスタイリングを行う有本さん
「鑑賞者の見た事ないもの、すぐには理解できないもの、置いてけぼりにしたいな。」
—有本さんは奈良出身ですが、京都でファッションを学ばれたあと上京してかわったことはありましたか?また、制作するときに受取手のことは考えていますか?
東京に来たことが理由かはわかりませんが、生活や制作をしていく中で素敵な考え方の人たちと出会い、私の物事に対する価値観はすごく変わったと思います。発信していきたいと思っているからこそ、もっと自覚して生きなければいけないな、と。制作に対するモチベーションは日々強まっています。受取手が喜ぶことを考えるというより、私自身も鑑賞者も見たことがなかったり、すぐには理解できないようなおもしろいことをつくり出せたらいいなと思っています。置いてきぼりにしたいな。でもつくりながらいつも次のことや、今回のコレクションでやり残した細かいことから大きなことまで妄想しながら手を動かしている感じです。
ファッションショー「こしょろがみた夢」
—有本さんの宗教観についてすごく興味があります。京都の西明寺でコレクションを行ったり、トルコのモスクからインスピレーションを受けたコレクションがあったり。もともと信仰されている宗教はありますか?
私自身が信仰している宗教はないです。国や地域によって違うと思うのですが、すごく信仰心の強い方達って本当にひたむきで真摯で、本気じゃないですか。日本にいると本気で何かを信じたり、がんばったりということに触れる機会が少なくて、だからこそ触れたときに感動して心が動くんだと思います。そういう本気の人たちがつくったモスクなどの宗教施設や儀式って本当に美しいなと思って、少しでも自分のつくるものもひたむきで美しいものが作れるようになりたいという憧れを抱いてしまいます。どの宗教や神話というよりは、信仰している人たちの気持ちや生活、文化などに興味があります。
—今回のコレクションでは、徳川幕府の鎖国政策時に日本から追放された混血児の「こしょろ」という10代半ばの女の子が大きな役目を担っているようですが、なぜこのテーマをしようと思ったのですか?
今回ショーの映像と音楽を担当してくださったアーティストのmamoruさんがこのテーマに関してリサーチをしながら作品をつくっていらっしゃる方なんです。最初にmamoruさんの映像作品「あり得た(る)かもしれないその歴史を聴き取ろうとし続けるある種の長い旅路、特に日本人やオランダ人、その他もろもろに関して/along listening journey of a Possible thiStory especially of Japanese & Dutch &something more」のための衣装制作の依頼を受けて、とても面白いテーマだと思ったので私のコレクションでも使わせていただきました。mamoruさんの物事の背景を深く掘り下げてリサーチしながら制作するというひたむきな姿勢に感銘を受けたというのもきっかけの一つです。
mamoruさんの作品 Firando Tayouan Batavia / ヒラド タイハン ジャガタラ(2018)
—自然とコラボレーションが生まれたということですね。有本さんはコラボレーションを行われることが多いと思うのですが、自分のコレクション発表をするときに自分自身だけではなくて他のアーティストとやることは有本さんにとってどんな意味がありますか?
私はたいていの場合、人に興味がないので本当によっぽどのことがなければコラボレーションはしたくないのですが、だからこそ一緒にやりたいと思った人とはめちゃくちゃ気合いを入れてやります。私は自分のコレクション発表の時くらいしか誰かと一緒にものをつくったりしないので、むしろそのためにコレクションをしている気がします。基本的に生きていること=独りでコツコツ手を動かすことなので、コレクション発表という晴れの舞台のときくらいは一緒にやりたい人とつくりたいんです。その人と繋がるためにつくっているという感じです。
「物をとおして過去と現在と未来が交錯して、想いが伝わる」
—今回のコレクションではインドネシア出身のモデルさんもいらっしゃるんですよね。物語との連動性はあるのですか?
はい、ムティアですね。彼女はmamoruさんがインドネシアで知り合った現地の子です。今回のショーで流す映像にも出てきますが、彼女には今回のテーマとなった「こしょろ」さんという昔の混血児の方を体現してもらいました。
—映像作品と実査に実在するモデルさんたちが同じ空間にいることの連動性は何ですか?
映像とはまた別の物語が展開されていきますよね。時空がワープするイメージです。「物をとおして過去と現在と未来が交錯して、想いが伝わる」ということがなんとなくテーマになっています。こしょろは日本から追放され、自分が世話になった乳母さまに手紙を出したくても、禁止されていて出せなかったんです。それでこしょろは乳母さまへの想いをお茶を包む布に書いて送ったのですが、その布が平戸の美術館に実際に展示されているんですね。それがまさしくこのようにパッチワークされた布なんです。そこから発想して(コレクションのDMにもなっている)この服もこしょろの手紙の文字を書き、布をパッチワークしてつくりました。他にもインドネシアのバティックという伝統的な生地をふんだんに使っています。
こしょろの手紙をイメージして作ったパッチワーク作品
—アトリエの下に布屋さんがありましたが、そこでも布を購入されるんですか?
はい。最初はこのアトリエの近くに住んでいて、お店に通っているうちにオーナーと仲良くなったんですが、実はここの大屋さんなんです!(笑)設営の搬入も手伝ってもらってしまって、、、とても応援してくださっています。
—(机にあるデザイン画をみて)とても可愛らしいイラストですね!
今回のコレクションのデザイン画はこんな感じです。(見せてくれる。)
少女漫画が好きで、デザイン画もいつも漫画っぽくなるんですよね。
今回のコレクションは全部モデルさんたちが最初に決まっていて、その子たちに合わせてオーダーメイドのような形でつくりました。2013年に初めてコレクションをやったのですが、毎回コレクションに出てくれているモデルさんと仲良くなって行く中で、発想できるデザインが増えていったんです。この子はこういうデザインが似合うだろうな、とかこんな色を着せたいな、とか。
「ファッションデザイナー」ではなく、「有本ゆみこ」として
—自分が本当にやりたいことと、ビジネスとしてのファッションのバランスをとるのは難しいと感じますか?
「ファッションデザイナー」って「時代」とか「経済」を意識し、売れる物(流行)を作って世の中を動かす人たちだと思います。でも今の時代はお金がない感じがしますよね。ハイブランドでも時代をひっぱっていくようなデザイナーは少なくて、消費者の顔色を伺って商品を提供しているように感じます。老舗百貨店の高級ブランドショップのウィンドーなんかを見ても、つまらないし感情がない。感情的な服が売れるのかと聞かれたら、今そういうものは求められていないのかもしれないでが、、、。だったら私は「ファッションデザイナー」ではなく、「有本ゆみこ」として感情豊かで幻想的なモノやコトを世に生み出したいです。やっぱりスタンスとしては「戦」ですね!個人戦になりそうですが、がんばります!
interview:haru PHOTO: 小林真梨子
ファッションショー「こしょろがみた夢」
【ハルマリ突撃インタビュー編集後記】vol.1 SINA SUIEN 有本ゆみこ
インタビュー企画の記念すべき第一回目はSINASUIENというブランドの有本ゆみこさんだ。取材はご本人のアトリエで行うことになった。有本さんのアトリエは小さな町のアパートの一室で、建物の一階には生地屋さんがある。アトリエにはアジアンテイストな小物が棚に無造作に飾ってあったり少女漫画が積んであったりして、有本さんの日々の動作と歴史を読み取ることができる気がした。そこは彼女が静かに自分と戦う神聖な場所なのだ。「信仰している宗教はないです」と有本さんは言うけれど、彼女の結んだ髪の上でゆれているウサギのヘアゴムは、彼女が信じている正義を物語っている気がする。今季のテーマになっている「こしょろ」の物語はとても印象に残った。2011年3月11日、私がそれまで知っていた日本は終わった。16歳になったばかりだった。あの大地震で私は直接被害を受けた訳でもないが、母の意向でドイツの祖父母の家に住むことになったのだ。それから随分と長い間私は故郷を思い出し、逃げた自分を責め、時には記憶を美化しながら幾度となく泣いた。こしょろの物語は思わず自分の記憶と重ねてしまう部分がある。夢をみることすら自粛しなければいけないと感じたあの頃、有本さんの服に、そしてこのコレクションに出会えていたらと思ってしまう。インドネシアの生地でつくられているにも関わらず着物のようなシルエットのドレスや、ため息が出そうになる繊細な羽織は見事にモデルたちの特徴を引き立たせるようにそれぞれに寄り添っていた。それもそのはず、モデルたち一人ひとりに合わせてつくられているのだから。(LaRificolonaが靴制作した)靴も服の生地と見事にマッチしているし、なんて贅沢なんだろう、、、!アトリエで見たはずのそれらは、「はじめまして」の輝きを放っていた。頭のてっぺんからつま先まで有本さんの魂が行き届いたモデルさんを見ていると、ひたむきで美しいものがつくりたいという有本さんの言葉の意味がわかる。有本さんの「戦い」がこれからもずっと、続きますように。
haru.
【ハルマリPROFILE】
haru.
同世代のメンバー4人を中心に制作されるインディペンデントマガジン『HIGH(er)magazine』の編集長を務める。『HIGH(er)magazine』は「私たち若者の日常の延長線上にある個人レベルの問題」に焦点を当て、「同世代の人と一緒に考える場を作ること」をコンセプトに毎回のテーマを設定している。そのテーマに個人個人がファッション、アート、写真、映画、音楽などの様々な角度から切り込んでいる。
https://www.instagram.com/hahaharu777
小林真梨子
1993年、東京生まれ。大学入学をきっかけに写真を始め、「楽しいこと」を追求しながら写真を撮っている。月刊誌『MLK』を制作ほか、アパレルブランド等の撮影も行う。
instagram.com/marinko5589
presented by CPK GALLERY
「服の見せ方」を考えるギャラリー