劣等生だった!?ファッション学生時代
ハル:では始めさせていただきます!
工藤(以下く):はい!(笑)
ハル:いろんなインタビュー記事読みましたが、工藤さんはk-popがお好きなんですね。
く:そう!めっちゃ好き!一番すきなのはZICOっていうラッパー。
ハル:私もk-pop大好きでした!IUが世に出てきたときは驚きでしたね。
く:そのラッパーのZICOの新しい曲でIUがフューチャリングしているの!
ハル:へえ~~!!もっとk-pop話で盛り上がりたいですが、そろそろ本題に入らせていただきます(笑)工藤さん、出身地はどこですか。
く:僕は沖縄出身です。
ハル:高校時代はアメリカに留学されていたんですよね。行ってみてどうでしたか?
く:それまでは 白人寄りの のアメリカンカルチャーしか知らなくて。知っている英語も白人のアクセントの英語だったし 。でも実際に留学で行ったのは黒人のホストファミリーの家。めちゃめちゃヒップホップ聴いてるホストブラザー二人の部屋からは一日中MTVが流れてたんだよね。あとその二人は毎週日曜日に白いデカいTシャツだったり、靴下とかトランクスにまでぴしっとアイロンをかけるの!でもよくよく見るとアメリカのラッパーとかみんなデニムもバシン!としてるしへにょへにょの服着てる人なんていないなって確かに思って。デニム好きっていうのもアメリカのカルチャーが身近にあったからだと思う。なんでかわからないけどブランド始めるとしたら絶対デニムやろうって決めてて、ファーストシーズンからずっとデニムはつくってる。デニムブランドとやりたいな~っていうのはずっとあったから今回EDWINとコラボさせてもらえて嬉しい。
kudosとEDWINとのコラボ
ハル:そういえば今日もビック白Tにデニムですね!
く:昨日も自分用にめっちゃ白T輸入したの(笑)コレクションにはアメリカンカルチャー色はないんだけどね。
ハル:めっちゃヘビーですね!スエットくらい分厚い。
く:生成りっぽい白は嫌いで、漂白してるみたいな白が好きなんだよね。薬品系の。
ハル:アメリカには英語留学で行ったんですか?
く:そうそう。田舎の学校でアジア人が自分しかいなくて。黒人も10人くらいしかいなかった。だからこそ黒人もアジア人も割とマイノリティとして見られていた環境だった。黒人の子達が自分をめっちゃ守ってくれたのをよく覚えてる。沖縄に住んでいた頃は、今まで自分はマジョリティだと思っていたけど、その概念がひっくり返された。かつ自分はそのとき既にゲイってわかってたから。マイノリティとして見られるであろう要因がいろんなレイヤーとして重なって、「あ、やばい」って思ってた(笑)その頃毎週ホストマザーと見てた『プロジェクト・ランウェイ』っていう(若手のデザイナーを発掘するオーディション)番組があって。オーディション形式で毎週人が落選していくんだけど、トップになったらNYのコレクションに出せるの。舞台はアメリカのパーソンズ美術大学(ParsonsSchool of Design)で、そこでテレビ収録してた。それでパーソンズに行きたいって思ったんだよね。でも帰国する三ヶ月前くらいに親がアメリカに遊びにきて、そのことを話したら一回日本に帰ってきてって言われました。日本にもいろんな文化がありますし、ということで。ここでアメリカに僕を残したら帰ってこなくなると思ったんでしょうね。
ハル:帰国してファッションの学校に入学しようと思ったんですか?
く:一度帰国して文化服装学院とかも見学に行ったんだけど、校舎はでっかいし派手な人が多すぎて負けちゃうなって思ってやめた。日本の普通の大学を卒業して、まだファッションが好きだったらそっちににいけばいいかなと。そのときもまだ自分がつくるっていうイメージはなくて、自分を着飾ってもいなかった。だから大学卒業後ファッションの学校に行くって言ったらまわりはみんなびっくりしてた。
kudosデザイナー工藤さんのアトリエにて
ハル:その後ヨーロッパのファッション大学へ入学されたんですね。
く:そう。日本で在学中の時は植木屋さんでバイトしてて、卒業後も一年はそれを続けたの。その次の年にアントワープ王立芸術学院を受けた。その頃はミシンも踏んだことないけどブックを作らなきゃいけなくて、やばい立体物をいっぱいつくってた。でもアントワープの大学も一年でやめちゃって。服をつくったことが無かったからすごく劣等生だったし。基本的にずっとそんな感じで、パリのパターンの学校に行ってたときも最初はフランス語が全然できなくて精神崩壊してた。ヨーロッパでファッションを勉強している友達たちはみんな優秀でほんとに素敵な人たちばっかりだったから自分はすごく落ち込んじゃって。
「自発的にファッションデザイナーになりたいとは全然思っていなかったなあ。」
ハル:それでも服はずっとお好きでしたか?
く:服はずっと好きだった!でも自分が着るというよりは、人が変わるのを見るのが楽しい。自発的にファッションデザイナーになりたいとは全然思っていなかったなあ。だから最初はスタイリストをしたり写真を撮っていたりして。ファッションを生み出すというよりはそのまわりから攻めて行こうとしてた。小さい頃から作りたいとは思っていたけど、その勇気がなかったんだよね。なんでかわからないけどちょっと恥ずかしかった。
ハル:ではどのような流れでデザイナーになったのでしょうか。
く:ヨーロッパから帰ってきたとき、自分はもうファッションデザイナーになるのはあきらめようと思ってた。でもせっかくヨーロッパで自分だけの卒業コレクション(卒業制作というものを経験したことがなかったから、自分で勝手にコレクションを製作した)を作ってきたし、その仕事にものすごく尊敬を抱いている『FREE MAGAZINE』の編集長の山崎さんに写真を見てもらおうと思ってアポイントメントをとったの。その時期に自分が撮ってた写真も好きだったし、自分は写真だなって思い始めてたから。そのマガジンで撮りたいと思った。日本でインディペンデントでファッションのエディティングが強い人ってなかなかいないから、その人がなんのリアクションもしてくれないんだったらあきらめようと思って。帰国したあと作った作品を撮影した写真を700枚くらいと、「一応服も持ってきてください」って言われたから、まあそりゃそうかと思ってつくった服をもって会いに行ったんだよね。でも行ったら全然写真見てもらえなくて(笑)、「いや君服でしょ!」って言われた。絶対ファッションつくったほうがいいし、その場で展示会も決まって。あれ~~って。初めて自分や家族友人以外の自分の外の人に服をみてもらったのがそのときです。
ハル:シンデレラストーリーですね!!!
く:その場で今からプレスルーム行きましょうってことになって。でもそれで本当に服を持って行ったら、プレスルームの人が事情をまだ把握していなかったみたいで「はあ?」って顔されました(笑)まだ値段もなければブランド名もついてなかったからとりあえず『TSUKASA KUDO』って名前をつけて。そのときアイテムは全部家でつくっていたし。
kudos デザイナー工藤さんのアトリエにて
ハル:ずっと劣等生でいたのに、最後の「賭け」に出る行動力がすごいですね。
く:したたかさ(笑)最初に出た雑誌とかは『TSUKASA KUDO』ってクレジットが書いてあるんだけど、誰にも相談しないで勝手に『kudos』ですって言い始めたんだよね。スタイリストに僕が直接貸すときは『kudos』、ショールームから貸し出されるときは『TSUKASA KUDO』って言ってたから同じ雑誌内でクレジットの名前が違ったりして(笑)
ハル:それからはもう「自分は服作りだ!」ってなったんですか?
く:いや、そこからはもうなんか馬車馬のように働いている。でも初めて人に「あなたの服はいいですよ」って言ってもらえたから、ひなが親鳥をみた感じで見よう見まねでコレクションを出し続けている感じです。まだ自分がブランドをして服をつくっている、ってことに思考がおいついていないけど、ひたすら頭と手を動かしてる。
ハル:受け身なのに生産されている。最近ウィメンズも始められましたよね。始めようと思ったきっかけはなんですか?
く:え、やったら?って言われたから。
ハル:どこまでも受け身!(笑)やってみてどうですか?
く:めっちゃ難しい~。いい距離感はあるけど、自分が狙って「これっしょ」っていうものじゃないアイテムが良いですね、って言われたり。 。メンズだとある程度予想がつくけどウィメンズはそれがなくて。コレクションとしてアイテム数が足りないからばんばんつくりましたみたいなアイテムがとても好評だったり。今までは予想にぶれがなかったのに。
kudos(工藤司)・ 花代 写真展 「あい ういる おるうえいず びい ひあ」展より
ハル:私もそうかもしれないです。一目みて好きだってなったら買う。
く:最近は女性のそういうところが好き。というか感激する。自分もけっこうパンパンパン!って決めるけど、それに輪をかけて女性ってすごいなって。今は次のシーズンのことを考えているんだけど、自分もなんか感覚的に作るようにしているというか、頭をあまり使ってない。ウィメンズを始めてすごく面白いなって思うのは、本当に服って人の肌の曲線と関わるんだなってこと。メンズはすごくフラットだけど、女性の服はデザイン画をかいても実際に着せてみたら全然違うものになるからそれがすごく楽しいかも。女の人ってすごーいって。デザインするときの思想は一緒だけど。
kudos(工藤司)・ 花代 写真展 「あい ういる おるうえいず びい ひあ」展より
ハル:服はもちろん写真も撮ればグラフィックやスタイリングをされたり、とてもマルチに活動されていますよね。そこに対する思いってありますか?
く:今レディースのオンラインとかの撮影を初めて別の人に頼んでいて、自分では撮っていないんです。メインのルックブックの写真は自分で撮ってるんですけど。今までは自分でやることは大変だなって思ってました。どう見せたいかわかっている分、自分に足りていない部分を痛感するからそれがつらくて。でも他人に任せるとコントロールってできない。コントロールしないことのストレスってすごくあります。結果自分でやったほうが楽っていうのはわかったけど、続けていくには解放していく必要もあるし。最近はコマーシャルワークというか、他のブランドのルックを撮影したりしていてそれがめっちゃいいい気分転換になってる。
ハル:それは自分の仕事と平行してやっていきたいですか?
く:うん。自分のブランドを主軸にね。デザイナーとかお店側がどういうふうに服を見せていきたいかっていうのは、自分に置き換えたらすぐにわかることだから。超簡単っていうかすごくスムーズにできる。自分の作品だったらここらへん写ってなくていいやと思っても、この人のためにって思ったら写しちゃったりして楽しいし。大変ですねって言われることも多いけど自分に返ってくるものはすごく大きい。自分のブランドだけじゃなくて他もやっているほうがスピード感も経験値もいいペースで上がるかなって。素振りみたいな感覚。
ハル:端から見たら受け身な体制が逆にとても力強いですね。何か一つのことに縛られない感覚が今の時代にすごくあっている気がします。根っこの部分にファッションがあってあとはもう自由に動き回ってるんですね。
く:うん、すごく楽しい。まあ自分のブランドがなかったら根無し草って感じだけどね(笑)風邪引いたら大変だし。
写真展 「あい ういる おるうえいず びい ひあ」展について
ハル:この間CPK GALLERYでアーティストの花代さんと一緒に展示をされていましたよね。どのようなきっかけで展示が決まったんですか?
kudos(工藤司)・ 花代 写真展 「あい ういる おるうえいず びい ひあ」展より
く:最初に展示の話をいただいたときに、ショーとかインスタレーションをやるには時期的に新しい服を見せる機会ではなかったから、じゃあ逆に写真展をしたいと思いました。いつも『kudos』は自分でルックを撮ってるんだけど、外から見たkudosも見てみたくて他のフォトグラファーにも頼んでみたいなーと思って企画をお願いしました。服をフォトグラファーに渡して撮ってきてもらおうっていうのが最初の企画で自分もいろんな写真家の名前をあげていたんだけど、HYOTAさんが花代さんはどうですかって言ってくれて。ちょうどその話をする前の日に、ウィメンズの撮影のフォトグラファーどうしましょうかってミーティングをしていて、そのときも花代さんの名前があがってたの。二人に言われるってことは絶対何か運命的なものがありそう!って。花代さんもかなりドリーミーな写真を撮られるし、自分も「日中フラッシュ」というかノスタルジーっぽい写真のスタイルで。お互いテクニック系ではないからエモーショナルになって混ざりすぎちゃうんじゃないかっていう心配はあったけど、その分近い部分をシェアできる人なのかなって思って花代さんにお願いしました。
kudos(工藤司)・ 花代 写真展 「あい ういる おるうえいず びい ひあ」展より
ハル:展示されていた写真は工藤さんと花代さんのお二人が撮られているんですよね。
く:僕は最初『kudos』を着ていない裸の男の子達を撮る、って勝手に決めていたんだけど結局それはなくなりました。花代さんと会ってみたら「工藤君が一人の対象を撮ることに関してはあなたの世界観が完結しているから、そこに私が新しい視点を持ってくるのは必要ないかも」って言われて、それはもちろんそうだなと思って。自分も日常の延長線上にある何かのほうが好きだから、お互いに撮って終わりというプロジェクトではなくまだお互いがやったことがないことを一緒にやってみましょうということになりました。
ハル:被写体の子たちはどうやって決めたんですか?
く:「集団」を撮らないか、という話になったんです。いつもだいたい被写体と一対一で会ってしゃべりながら撮るっていうのが多かったから、チームとか仲間たちっていうのは撮ったことがなくて。自分も基本的に群れたくないタイプだし(笑)花代さんも点子ちゃんという少女をずっと撮っていて、被写体との関係性のつくり方が似てる。お互いにとってフレッシュな企画になりそうだね、と。じゃあ誰を撮るかってなったときに、自分が日本に撮りたいグループなんていないかもって軽い気持ちで言っちゃって(笑)そしたら花代さんが「ロンドンにはいるよ」って。点子ちゃんとその仲間たちなんですけど。もう展示の一ヶ月前だったし、誰がお金だすのって話で。自分も花代さんも、もう一度言ったらロンドンが頭から離れなくなっちゃって(笑)行けるかわからないけどちょっと話だけでもしてみましょうか、ということで諸方面にお話して行くことができるようになりました。
kudos(工藤司)・ 花代 写真展 「あい ういる おるうえいず びい ひあ」展より
5年後僕の服がどれくらい「人のもの」になっているんだろうってことが今すごく気になります。
ハル:写真の展示の仕方にはどんな工夫をされていますか?
く:今回すごかったのは、どの写真を誰が撮ったかわからないようにしたこと。自分も花代さんもどの写真に対してもクレジットを入れなかった。花代さんのようなアーティストがそんなことをするっていうのは結構むちゃくちゃな話なんだけど。あがった写真を見て、自分たちでもどっちの写真かわからないものがあったりした。花代さんも僕が撮った写真をみて「え、これあたし撮ったやつじゃんね?」って(笑)僕のファンの子は僕が撮ったと思う人もいるし、写真家とか関係者たちは『kudos』と『soduk』を花代さんが撮りおろしてくれたって思っている人もいる。自分たち的にはけっこうしてやったりっていう感じ。
ハル:写真のありかたについても考えさせられますね。
く:そうそう。誰の写真かはわからないけど、確かにそこに存在しているっていう。でね、全然服写ってないの(笑)50キロ分の服を大変な思いして持って行ったのに。まあ想像はしてたんだけど。僕が服を撮るタイプじゃないし、花代さんも撮らないし。まったくルックっていうものからかけ離れてる。そもそもルックは撮らないと決めていたから。本当にその日の朝に目覚めた集団の、陽がくれるまでの事象という感じ。服の会社に出資してもらってロンドンまで行って、帰ってきてあがりみたら煙ばっかりみたいな(笑)
ハル:結果的にお二人にとってフレッシュな経験となりましたか?
く:めっちゃフレッシュ。この撮影を通して、もっと服って日常の中に溶けているものでないとな、って気付いた。着ているのはその人たちであって、服はその人たちに寄り添っているものでしかないから。そこに立ち返れたのはすごく気持ちがよかった。あえて、わざと服をデザインしていますと声高くしているのが僕らの職業で、本当はもっと着ている人たちが心地いいとか、むしろ服のことを何も考えないくらいのものでないと。その溶け合っていること自体をもっと考えたい。服ってけっこうでもそれが美しいって思う。
kudos(工藤司)・ 花代 写真展 「あい ういる おるうえいず びい ひあ」展より
く:高い服でも毎日着た方がいいよ。ぼろぼろになってるくらいがいいなって思う。まだブランドはじめて一年経ってないから、5年後僕の服がどれくらい「人のもの」になっているんだろうってことが今すごく気になります。
Interview:haru Photo: 小林真梨子
【ハルマリ突撃インタビュー編集後記】vol.2 kudos 工藤司
インタビュー企画第二弾。今回は『kudos』のデザイナー工藤司さんにお話を伺いました。工藤さんはまるでたんぽぽの綿毛のようにはんわりしている人。どこにでも飛んでいけそうだけど、行き先はもちろん決まっていない(にっこり)、みたいな。ファッションとの関わり方を一つにしぼらない。そこにものすごく共感しました。どこにいてもただなんとなくそこに存在しているのではなく、自分のそのときに置かれている環境をしっかりと観察しながら、興味をもったものには怖がらずに近づいてみる。受け身のように見えて、工藤さんは人一倍その場の空気の味がわかる人なんだろうと思います。レディースの最新コレクションではグリーンのセーターと赤いニットパンツが衝撃的に素敵です。でもその組み合わせだとクリスマスっぽくなっちゃうか。工藤さん、今度K-popのコンサート一緒に行きましょう。
ハル
【ハルマリPROFILE】
haru.
同世代のメンバー4人を中心に制作されるインディペンデントマガジン『HIGH(er)magazine』の編集長を務める。『HIGH(er)magazine』は「私たち若者の日常の延長線上にある個人レベルの問題」に焦点を当て、「同世代の人と一緒に考える場を作ること」をコンセプトに毎回のテーマを設定している。そのテーマに個人個人がファッション、アート、写真、映画、音楽などの様々な角度から切り込んでいる。
https://www.instagram.com/hahaharu777
小林真梨子
1993年、東京生まれ。大学入学をきっかけに写真を始め、「楽しいこと」を追求しながら写真を撮っている。月刊誌『MLK』を制作ほか、アパレルブランド等の撮影も行う。
instagram.com/marinko5589
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「服の見せ方」を考えるギャラリー
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